第40回日本臨床リウマチ学会の総会に、リピッドパラドックス研究の演題が採択された。
それを知ったとき、僕はクリニックの目の前のスタバでデカフェのアイスコーヒーを飲んでいた。氷の音がカランと鳴った瞬間にスマホが震えて、メールを開いて、「採択」の二文字を見た。
「やったな」と思った。
でもその次に思ったのは「これでまた忙しくなるな」だった。正直に言えば、アイスコーヒーの氷の方がのんびりしていた。
採択は、ゴールではなくスタートだ。つまり、いきなり新しい宿題が机の上にドサッと置かれるようなものだ。スライドを作り、声にして練習し、何度も直していく。11月までの数ヶ月は、きっとあっという間に過ぎてしまう。いや、たぶん気がついたら、靴下を片方だけ履いたまま発表当日を迎えているかもしれない。そんなことにならないように、今から準備を始めなければならない。
研究は、たとえるなら薄暗いトンネルを歩くようなものだ。どこまで続いているのか分からない。だけど、トンネルの壁に手をあてると、ひんやりとした確かさが返ってくる。ひとつひとつの作業が、その「確かさ」だ。積み重ねが道になり、気づけば出口の光に近づいている。
こうした準備は、忙しい日常に紛れ込みながらも、不思議と僕のペースメーカーになる。診療と家族と研究、そのあいだを行き来する日々の中で、次にやるべきことがいつも前に置かれている。それは小さな荷物のように重く、しかし背中をまっすぐにしてくれる。
ライフワークという言葉は、どこか大げさに聞こえる。でも、毎日食卓に花を一輪飾るように、ささやかに続けていく行為こそが、実はライフワークなのかもしれない。リピッドパラドックスの研究も、そうして僕の日々に根を下ろしつつある。
うれしさは、一瞬で消えてしまう花火のようなものだ。でもその残光を胸にしまい込みながら、僕はまた、静かに歩き出す。11月までの道のりを、ひとつの旅のように。