スライド作りが、いよいよ佳境に入った。
今回は内科地方会での症例報告だ。
正直に言えば、この年齢での演者は少ない。
内科地方会は、どちらかというと若手の登竜門のような学会だ。
初めての発表、初めての質疑応答、初めての緊張。
そういう空気が、会場には確かにある。
でも、これまでも僕は見てきた。
若手に交じって、諸先輩方がぽつりと演者として立つ姿を。
最新の研究成果だったり、地道に積み重ねた症例報告だったり。
派手さはないけれど、静かに芯の通った発表。
あのとき、正直に思っていた。
「なぜ、今さらこの場所で発表するんだろう」と。
今なら、その理由が少しわかる気がする。
それはきっと、若手のため“だけ”ではない。
ましてや評価のためでも、肩書きのためでもない。
自分のため。
目の前の症例を、もう一度きちんと省察するため。
自分の臨床を、自分自身の言葉で整理し直すため。
10年前と、今とでは、発表に対する心構えがまったく違う。
昔は、
「漏れなく説明すること」
「突っ込まれないこと」
「全部を正しく並べること」
に必死だった。
今は違う。
どこに光を当てるか。
どこをあえて陰に落とすか。
その選択こそが、発表者の仕事なんだと思うようになった。
すべてを丁寧に説明することが、必ずしも誠実とは限らない。
大事なのは、正しさを保ったまま、どうデフォルメするか。
聞き手の時間と集中力を信じて、
“伝わる形”に削ぎ落とすこと。
症例は、ただの事実の羅列ではない。
どこに違和感があり、
どこで立ち止まり、
何を問い続けたのか。
その軌跡こそが、共有されるべきものだ。
内科地方会という場所で、
もう一度、自分の臨床を言葉にする。
それは、若手に戻ることではない。
むしろ、今の自分だからこそできる整理なのかもしれない。
スライド作りは、まだ続く。
でも、不思議と焦りはない。
この時間そのものが、すでに発表の一部なのだと思っている。