2025年9月17日水曜日

机の上の郵便物にまぎれた1通の封筒

 診察が終わったあと、机の上に置かれた郵便物をひとつずつ整理していた。保険者からの案内や、製薬会社の資料や、雑多な封書。その中に、少しだけ雰囲気のちがう一通がまぎれていた。

開けてみると、医師を対象にした、ある意識調査への協力依頼だった。差出人の大学名には聞き覚えがなく、身に覚えもない。それでも僕がかつて通った大学院からほど遠くない。どことなくその大学名を目にすると、自分の院生時代の空気がふとよみがえる。研究棟の廊下を歩く自分や、深夜にレポートを仕上げていた友人の姿が浮かんで、少し懐かしくなる。

よく知らない差出人からの封筒は、ともすると放っておきがちだ。それでも、この一通を無視してしまうのは惜しい気がした。誰かが真剣にテーマを選び、調査票を印刷し、切手を貼り、投函した。その手間を思えば、軽く扱う気にはならない。

案内にはQRコードが添えられていた。スマホをかざすとGoogleフォームが立ち上がる。手元で画面をスクロールしながら、いくつかの質問に答えていく。ほんの数分の作業だが、画面の向こうで誰かがデータを集め、統計にかけ、レポートにまとめるのだろう。

送信ボタンを押すと、画面が「ご協力ありがとうございました」と表示される。その短い言葉に、妙に安堵した。僕1人の回答なんて、大きな成果に直結するものではないかもしれない。でも、見知らぬ研究者の営みに少しだけ触れた気がした。

机の上の郵便物はまた雑然と積み上がっていくけれど、その中の一通が、ちいさな懐かしさと静かな余韻を残してくれた。

先頭打者ホームランというわけにはいかなかったけれども、長崎の光の中で未来の背中を追い始めた

朝いちばんの発表が終わった瞬間、胸の奥の霧がふっと晴れた。 半年分の緊張が、出島メッセの裏口にそっと置き忘れてきた荷物みたいに、気づけばそこにない。 同じ会場では、僕より二回りほど年上の先生たちが、外来と生活のすきまから丁寧に紡いだ研究をまっすぐ発表していた。 白い光の中で揺るが...