以前の僕だったら、スライドの背景にどんな色を置くべきか、ロゴをどの角に収めるのか、フォントをゴシックにするか明朝体にするか、そんな細かいことばかり気にしていただろう。見栄えを整えることに時間を使って、肝心の中身はどこか置き去りにされてしまう。
けれど今は違う。結局のところ大事なのは中身だ、という結論にたどり着いた。ロゴがどうだとか、背景がどうだとか、観客の記憶にはほとんど残らない。残るのは数字やグラフと、それをどう語ったかだけだ。
だから僕は、白い背景に黒い文字を、ただ武骨に並べていくことにした。余計な飾りはない。そこにあるのは事実と解釈、それだけだ。まるでタイプライターで打った原稿用紙を一枚ずつスクリーンに投影していくようなものだ。
シンプルさにはある種の静けさがある。そして静けさは、聞き手をかえって強く引き寄せることができるんじゃないか。少なくとも今は僕はそう思っている。