2025年9月3日水曜日

採択通知が鳴らす合図

 第40回日本臨床リウマチ学会の総会に、リピッドパラドックス研究の演題が採択された。

それを知ったとき、僕はクリニックの目の前のスタバでデカフェのアイスコーヒーを飲んでいた。氷の音がカランと鳴った瞬間にスマホが震えて、メールを開いて、「採択」の二文字を見た。

「やったな」と思った。

でもその次に思ったのは「これでまた忙しくなるな」だった。正直に言えば、アイスコーヒーの氷の方がのんびりしていた。

採択は、ゴールではなくスタートだ。つまり、いきなり新しい宿題が机の上にドサッと置かれるようなものだ。スライドを作り、声にして練習し、何度も直していく。11月までの数ヶ月は、きっとあっという間に過ぎてしまう。いや、たぶん気がついたら、靴下を片方だけ履いたまま発表当日を迎えているかもしれない。そんなことにならないように、今から準備を始めなければならない。

研究は、たとえるなら薄暗いトンネルを歩くようなものだ。どこまで続いているのか分からない。だけど、トンネルの壁に手をあてると、ひんやりとした確かさが返ってくる。ひとつひとつの作業が、その「確かさ」だ。積み重ねが道になり、気づけば出口の光に近づいている。

こうした準備は、忙しい日常に紛れ込みながらも、不思議と僕のペースメーカーになる。診療と家族と研究、そのあいだを行き来する日々の中で、次にやるべきことがいつも前に置かれている。それは小さな荷物のように重く、しかし背中をまっすぐにしてくれる。

ライフワークという言葉は、どこか大げさに聞こえる。でも、毎日食卓に花を一輪飾るように、ささやかに続けていく行為こそが、実はライフワークなのかもしれない。リピッドパラドックスの研究も、そうして僕の日々に根を下ろしつつある。

うれしさは、一瞬で消えてしまう花火のようなものだ。でもその残光を胸にしまい込みながら、僕はまた、静かに歩き出す。11月までの道のりを、ひとつの旅のように。


先頭打者ホームランというわけにはいかなかったけれども、長崎の光の中で未来の背中を追い始めた

朝いちばんの発表が終わった瞬間、胸の奥の霧がふっと晴れた。 半年分の緊張が、出島メッセの裏口にそっと置き忘れてきた荷物みたいに、気づけばそこにない。 同じ会場では、僕より二回りほど年上の先生たちが、外来と生活のすきまから丁寧に紡いだ研究をまっすぐ発表していた。 白い光の中で揺るが...