2025年6月11日水曜日

ピースを埋める

とても地味な作業だ。

ひとり終えては、椅子から腰を上げ、少し身体をひねる。

ひとり終えては、本のページをめくり、指先の乾きを感じる。


データセットをつくる。

この作業は、どこかパズルに似ている。


縦軸には患者の名もなきID。

横軸には、変数たちの沈黙。

それらの交点に、数字をひとつずつ埋めていく。

抗体の有無、罹病期間、ステロイドの量、LDL、CRP、…

そのひとつひとつが、誰かの時間の痕跡だ。


目を凝らし、過去の記録に触れながら、

空白のセルを埋めるたびに、わずかな充実が灯る。

数字はただの記号じゃない。

それは、診察室の沈黙の中で交わされた視線のひとつだ。


全体のちょうど半分が終わった。

まだ道のりは遠いけれど、

こうして少しずつ、見えない全体像の輪郭が浮かび上がってくる。


データという名のパズル。

ピースは静かに、しかし確実に、所定の場所へと嵌まりはじめている。


【2025年臨床リウマチ学会総会へ向けて-15】

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