とても地味な作業だ。
ひとり終えては、椅子から腰を上げ、少し身体をひねる。
ひとり終えては、本のページをめくり、指先の乾きを感じる。
データセットをつくる。
この作業は、どこかパズルに似ている。
縦軸には患者の名もなきID。
横軸には、変数たちの沈黙。
それらの交点に、数字をひとつずつ埋めていく。
抗体の有無、罹病期間、ステロイドの量、LDL、CRP、…
そのひとつひとつが、誰かの時間の痕跡だ。
目を凝らし、過去の記録に触れながら、
空白のセルを埋めるたびに、わずかな充実が灯る。
数字はただの記号じゃない。
それは、診察室の沈黙の中で交わされた視線のひとつだ。
全体のちょうど半分が終わった。
まだ道のりは遠いけれど、
こうして少しずつ、見えない全体像の輪郭が浮かび上がってくる。
データという名のパズル。
ピースは静かに、しかし確実に、所定の場所へと嵌まりはじめている。
【2025年臨床リウマチ学会総会へ向けて-15】