2025年8月6日水曜日

あの頃の自分に会いに行く

 10年ぶりに、内科地方会に症例報告を出すことにする。内科地方会での発表なんて、もう若手のやることだと思っていた。実際、あの会はそういう場だと教わった。プレゼンの練習台。若手の登竜門。それは今も、たぶん変わらない。

けれど、どうしてだろう。十年たった今も、あのときの光景を、はっきり思い出す。

僕が発表していた会の別会場で聴講していた中で、僕が初期研修した病院の神経内科の年配の先生が、静かに研究発表をしていた。若手に混じって。淡々と。少し小さめの声で。誰よりも、聞いてほしいことがそこにあるように感じた。

また別の、見知らぬベテランの先生は、無駄を削ぎ落とした短いスライドと、的確な口調で会場を引き込んでいた。あれはかっこよかった。今でも目に焼きついている。

誰が発表してもいいのだと、あのとき確かに思った。若手だけのものじゃない。あの場所は、誰かが何かを伝えたいと思うかぎり、開かれている。

今回、僕もそういう気持ちになった。成長したい。誰かに見てもらいたい。間違いがあれば、指摘されたい。そんなまっとうな願いを、忘れずに持っていたい。

だから、症例報告を出すことにした。十年ぶりの内科地方会に、十年越しの、自分なりの「問い」を。

医者としての年月が、経験とともに、鈍さも連れてくることがある。それに抗うように、自分の手で「初心」を灯し直してみる。

また、あの会場の静けさの中に立ってみよう。今の僕の声が、どこまで届くのか、確かめるために。

しかしまだ、次の会場の日時と場所が決まっていない。

先頭打者ホームランというわけにはいかなかったけれども、長崎の光の中で未来の背中を追い始めた

朝いちばんの発表が終わった瞬間、胸の奥の霧がふっと晴れた。 半年分の緊張が、出島メッセの裏口にそっと置き忘れてきた荷物みたいに、気づけばそこにない。 同じ会場では、僕より二回りほど年上の先生たちが、外来と生活のすきまから丁寧に紡いだ研究をまっすぐ発表していた。 白い光の中で揺るが...