2025年5月14日水曜日

先行研究の調査④:リウマチ治療薬でLDLは上昇する

 リピッドパラドックスをほどく、炎症と薬と血管の話。脂が静かに変わっていく。それは、食事や体質の問題というより、もっと深くて、もっと静かな、体の奥の出来事だ。関節リウマチという病気には、「リピッドパラドックス」と呼ばれる不思議な現象がある。コレステロールが低いはずなのに、心臓病のリスクが高いという逆説的な構造。

 2005年、Desseinさんたちは、その違和感に初めて声を与えた。2011年、Myasoedovaさんたちは、それを大規模データで証明した。2020年、Venetsanopoulouさんたちは、脂質が“質的に”変化しているのではないかという新しい視点を提示した。そして2023年、Jiahui Yanさんたちのレビューは、それらの議論を土台にして、ひとつの深い問いを描き出している。「じゃあ、リウマチの治療薬は、その脂に何をしているのか?」

 Yanさんの論文は、リウマチ治療薬と脂質の関係にもきちんと目を向けている。とくにIL-6阻害薬(トシリズマブやサリルマブ)については重要な指摘がある。この薬を使うと、LDLやHDLといった脂質の数値が一時的に上昇する。けれど、それは単なる「悪化」ではない。炎症が抑えられることによって、肝臓の脂質代謝が“正常化”し、見かけ上のコレステロールが元に戻るだけのこともある。つまり、「LDLが上がった」という数字だけで薬を止めてはいけない。「炎症が下がったからこそLDLが見えるようになった」のかもしれない。

 この20年で、リピッドパラドックスという言葉は、ただの観察ではなく、炎症と脂質と血管と薬のあいだにある、深い代謝の関連を示す言葉になった。

【2025年臨床リウマチ学会総会へ向けて-06】

先頭打者ホームランというわけにはいかなかったけれども、長崎の光の中で未来の背中を追い始めた

朝いちばんの発表が終わった瞬間、胸の奥の霧がふっと晴れた。 半年分の緊張が、出島メッセの裏口にそっと置き忘れてきた荷物みたいに、気づけばそこにない。 同じ会場では、僕より二回りほど年上の先生たちが、外来と生活のすきまから丁寧に紡いだ研究をまっすぐ発表していた。 白い光の中で揺るが...