いつもいつでもいっつも地味な地道な作業だ。
エクセルの表には、記号のような名前と、年齢、性別、罹病期間、抗CCP抗体の陽性・陰性、RFの数値。見慣れているはずなのに、一つ一つがどこか新鮮に感じられるのは、それが「顔のある情報」だからかもしれない。
今回の研究では、IL-6阻害薬を使用している患者の「リピッドパラドックス」の定量的な評価をする。「誰を対象とするか」という問いに向き合わなければならない。この問いは、案外、厄介だ。転院してきた人。キャッスルマン病で使用している人。スティル病の症例。薬をスイッチした人、していない人。そこに基準線を引きながら、同時に、年齢や罹病期間、抗体の有無、併用薬剤、CRPやLDLの推移といった変数を横断的に見ていく。
カルテを一つ開けば、ひとつの人生があり、治療の軌跡がある。数値のグラフが、患者の生活の一部を物語っているようにも見える。「このとき、副作用が強くでたんだよな」「ここで別の薬剤にスイッチしたらどうだったのだろうか」データ抽出とは関係のないそんなことを夢想しながら、僕は少しずつ、少しずつデータを転記していく。
あらかじめ決められた道をなぞるものではない。目の前の情報と対話を重ねて、静かにかたちをつくっていく作業だ。まだ全貌は見えない。けれども、点と点をつなぐ線の手触りは、少しずつ確かになってきている。
毎日のスキマにデータの森に入っていこうと思う。静かな探求の一日が、今日もはじまった。
【2025年臨床リウマチ学会総会へ向けて-13】