2025年5月28日水曜日

データ抽出

いつもいつでもいっつも地味な地道な作業だ。

エクセルの表には、記号のような名前と、年齢、性別、罹病期間、抗CCP抗体の陽性・陰性、RFの数値。見慣れているはずなのに、一つ一つがどこか新鮮に感じられるのは、それが「顔のある情報」だからかもしれない。

今回の研究では、IL-6阻害薬を使用している患者の「リピッドパラドックス」の定量的な評価をする。「誰を対象とするか」という問いに向き合わなければならない。この問いは、案外、厄介だ。転院してきた人。キャッスルマン病で使用している人。スティル病の症例。薬をスイッチした人、していない人。そこに基準線を引きながら、同時に、年齢や罹病期間、抗体の有無、併用薬剤、CRPやLDLの推移といった変数を横断的に見ていく。

カルテを一つ開けば、ひとつの人生があり、治療の軌跡がある。数値のグラフが、患者の生活の一部を物語っているようにも見える。「このとき、副作用が強くでたんだよな」「ここで別の薬剤にスイッチしたらどうだったのだろうか」データ抽出とは関係のないそんなことを夢想しながら、僕は少しずつ、少しずつデータを転記していく。

あらかじめ決められた道をなぞるものではない。目の前の情報と対話を重ねて、静かにかたちをつくっていく作業だ。まだ全貌は見えない。けれども、点と点をつなぐ線の手触りは、少しずつ確かになってきている。

毎日のスキマにデータの森に入っていこうと思う。静かな探求の一日が、今日もはじまった。


【2025年臨床リウマチ学会総会へ向けて-13】

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朝いちばんの発表が終わった瞬間、胸の奥の霧がふっと晴れた。 半年分の緊張が、出島メッセの裏口にそっと置き忘れてきた荷物みたいに、気づけばそこにない。 同じ会場では、僕より二回りほど年上の先生たちが、外来と生活のすきまから丁寧に紡いだ研究をまっすぐ発表していた。 白い光の中で揺るが...